夫との出会い③

自分語り

上司に対して信頼とリスペクトが生まれた私は、それまでと全く異なる毎日の労働環境に感謝していた。

以前より人間らしい生活を送れるようになり、心身ともに楽になっていたのであるが、ある一つの問題が残っていた。

もしよろしければ、夫との出会い①・②もご覧ください。

さて皆様、私が抱えていた唯一の問題を憶えていらっしゃるだろうか。

「休日ヒマ過ぎ問題」である。

前章でお話したが、休日に買い物に行っても欲しいものが売っていない。今の時代のようにサブスクなんかも全然無かったため、広大な自然溢れる土地での平和な暮らしが退屈で仕方なかったのだ。

これは転勤して来た単身者であれば誰もが同じように抱えている悩みでもあった。

私は職場で上司や同僚がいる場で聞いてみた。

私 「休日、ヒマ過ぎません?皆さん休みの日は何してるんですか?本当に教えて欲しいんですけど!」

上 「ヒマやなぁ。することないなぁ。酒飲むくらいしか。w」

同 「ヤバいっす。実家帰らない時はマジでヒマっす。(コイツは実家が割と近かった。)休日は買い物行くくらいですかね。」

私 「でもさ、欲しいものが何も売ってないんだよ!もうさ、どうしたらいいの!?」

同 「それわかるっす。なんか、違いますよね。ラインナップが。」

私 「バカにしてるとかじゃなくてさ、みんなどうやって過ごしてるんだろうね??」

全員「うぅーむ………。」

この悩みはその後いつまで経っても解消されることは無く、このことに痺れを切らした私はとある企画を閃いた。

シフトの休日がよくかぶっていた上司を誘い出し、観光名所を巡って美味しいご飯を食べまくる!という、相手の気持ちはお構い無しの自己中心的な企画である。

私は当時車を持っていなかったため休日の移動の手段は自転車か電車だった。しかし電車で出かけたところで限界を感じていたのだ。そのため

『もし、車で1~2時間かけて出かけることができたら気分転換になるし、美味しいご飯が食べれたら最高だ!』

と、考えただけでテンションが爆上がりして、上司の都合お構いなしに強引に誘いまくるという何とも迷惑な荒業に出たのだった。

私 「上司さん、次のお休みって、暇じゃないですか??近くの観光名所、行ってみたくないですか??」

言っておくが私は過去、自分の上司と2人きりでどこかへ出かけるなんてことは、ただの一度もしたことは無い。

皆ご家族がいたのもあるが、それより何より、休日に上司と共に行動するなんて!『ゲボゲボー!X﹏X』天地がひっくり返ってもまっぴらごめんだったからである。

だがしかし、私の上司ヒストリーにおいて初めて信頼とリスペクトが生まれたこの上司となら、むしろ

頼むからお願いだから、暇なら一緒に行ってくれー!!ಥ_ಥ」

と願うほど、自分をさらけ出し図々しくなっていた。

上司は離婚歴があり当時はフリーであった。かく言う私も長年、本っ当に長年、お付き合いした方とお別れをした後だったため、何の気兼ねも無く誘えたのだった。

しかし、この時点でお互いに恋ごころの「」の字も芽生えていない。

あるのは、上司が安心・安全なジェントルマンであるという信頼と実績!のみ。

上 「あぁ、その日だったら特に予定はなんもないけど、わざわざ観光名所まで…?行ってみる…?」

上司は明らかに行きたく無さそうである。しかし、私はこの答えを計算済みだった。

私 「行きましょうよ!上司さん、お酒、飲みたくないですか!?飲みたいですよね??私が運転して良いなら、帰りの運転手はやりますんで!安心して飲んでもらっちゃって大丈夫ですから!!だから行きましょうよー!」

上司はお酒と美味しいご飯が好きなのだ。

この手を使えばきっと一緒に出かけてくれるだろうと予想していた。すると私の思惑通り、

上 「お!?それならいいかもな。帰りの運転手か。じゃ、試しに行ってみよか。」

両者の利害が一致した瞬間であった。

それからというもの、月に1,2回のペースで上司を無理やり誘い出しては、観光名所や美味しいご飯屋さんに行くようになっていった。

そのうち何故かボーリングをしたり、上司宅でたこ焼きをしたり、今考えると馴れ馴れしいにも程があるんじゃないかと自分を引っぱたきたくなるくらい、公私共にお世話になっていた…。

だがこんなにプライベートの時間を共有しているにも関わらず、お互いにまだ全く恋心は芽生えていなかった

かなり稀な(変な)2人が揃ってしまっていたのだ。と、今振り返ってみて思う。

しかし遂に、私が一方的に意識するようになるきっかけが起きた

その日私は仕事中、店に入荷した大量の荷物を捌くために、どこかに置いてしまった自分の軍手を探していた。

私の職場では高機能軍手は必須アイテムだ。軍手が無いと始まらないと言っても過言ではない。

厳密に言うと仕事事態は出来るが、軍手を無くすとテンションが爆下がりする。手がズタボロのボロ雑巾のようになるからである。

そんな訳で私が軍手を探し彷徨っていると、上司がその様子を見て

上 「なに探してるん?」と聞いてきた。

私 「自分の軍手です!どっか置いちゃったみたいで…」

上 「あぁ、そんなら、俺の軍手やけど使っていいで。軍手ないとしんどいやろ。」

私 「え、いいんですか??すみません!ありがとうございます!お借りしまーす!」

…潔癖気味の人からしたらこの時点で

「え、軍手の共有…?あり得ないんですけど。普通借りねぇだろ。」と思われるだろう。

しかしこの後、もっと「あり得ない」と思われる行動を私は取るため、覚悟して頂きたい。

この時点ではいつものやりとりであった。

しかし次の上司の言葉で、私の心は一気にパニック状態に陥り、非常事態宣言が発令されることとなる

上 「今日1日使っててええよ。あ、でも、においは嗅がんといてな

…こう言われた私は、一瞬、フリーズした!そしてハッ!!と我に返った。

私 「え!!…どうして嗅いじゃダメなんですか…?」

上 「え、どうしてって、におったらいややん。はずかしいやろ。」

私 「…あ、そうなんですね!了解しました!それなら嗅ぎません!!」

上 「そうしといてー。使い終わったらココに置いといてくれたらいいよ。」

私 「ありがとうございます!」

私はこの会話のあと、脳内パニック状態。心臓はドキドキして鳴りやまなかった!

どこにそのポイントがあるのか、皆様の脳内は別の意味でパニックかもしれなが、説明させて欲しい。

軍手のにおいを「嗅いじゃだめ」と言われた私は、何をどうしても絶対「嗅ぎたい!」と思ってしまったのだ!

果たしてこれを読む何人の人に理解していただけるだろうか…

私の心中は、

え、嗅いじゃだめって、どうーゆうこと??言われなければそのまま返したのにさ、嗅ぐなって言われたら、絶対嗅ぎたくなるでしょ、普通!!なんでわざわざ嗅ぐなって言ったんだろ??何かのテスト…?

でも絶っ対に、誰にも見られないようにこっそり嗅いでから返そう

…このような思いでいっぱいになり、何故か心臓がドキドキわくわくして暫くの間止まらなかったのである。

借りた軍手は、その日の終わりに返却した。

私 「ありがとうございました!」

上 「あぁ、置いといてー。」

居ても立っても居られない心境が続いていた私は、同僚の女子社員にこのドキドキがなんなのか相談してみた。

同僚は始めこそ笑いながら聞いてくれていたが、

同 「で、結局、におい嗅いだの?嗅いでないの?

と、急に真顔になった。私は正直に答えた。

私 「嗅いだ。嗅いで、返した。しかもさ、聞いてよ!

どんなにおいかと思ってめちゃくちゃドキドキしてさ、誰にも見られないように倉庫の端っこで不審者みたいになりながらこっそり嗅いでみたらさ、どうだったと思う!?

…それがさ、何のにおいもしなかったんだよー!無臭だよ!1日頑張って、まさかの無臭かよ!!!ってなったわー。まじで。残念。」

同 「…………(コイツ、変態や。)」

私 「で、聞きたいのはさ、一体なんの種類のドキドキだったのかってことよ!え、まさか私が上司のこと好きなわけは、無いよね??」

同 「……いや。それ絶対、好き以外の何物でもないでしょ!!どう考えても普通に、わかるでしょ!!

でさ、普通は、嗅がないよ。マオちゃんしか、嗅がないと思うよ。

そんで、ずっと前から上司のこと好きだったんだと思うよ!!!

私 「え………!?マ・ジ・で………!?(色んな意味で)」

ことごとく、他人の普通と私の普通はズレている。

もはやそのことに落ち込むこなど無いのだが、あまりにもハッキリ言われてその時は本当に驚いた。

『私、上司のこと、好きだったのかー…。でもにおいを嗅ぎたくなるってことは、確かにそうゆうことかもしれない。興味ない人のにおいわざわざ隠れてまで嗅ごうなんて、思わないもんなー…。』

帰り道、こんなことをボーっと考えながらチャリを漕いでいた。

こうして「軍手事件」のおかげで自分の気持ちに気づき、ただでさえ一緒に居る時間が長かったのと、上司に対して信頼と尊敬の気持ちが大きかったのもあり、ごく自然な流れでお付き合いは始まったのであった。

信頼と実績。これ大事。

私は当時、夫の事をパワハラ上司と思って絶望しながら転勤してきたわけだが、こんな変わり者で面倒な私を当時から受け入れてくれて、その後も変わらず共に居てくれる夫には感謝の気持ちでいっぱいである。

あの時、軍手を失くしていなかったら、今も私は社員としてどこかの店で働いていたのかもしれない。そして夫はそのうち関西方面に転勤となり、私は関東に戻って離れ離れになり、そこでご縁は終わっていたのだろうか。

人との出会いとは不思議なものである。

追記

無事に夫とお付き合いが始まった訳であったが、私が相談した同僚以外には交際を公表しなかった。理由は、ただ単に面倒だから。

でもいつも2人で行動していたので、ある時はボーリング場で目撃され、ある時はスーパーでパートさんとばったり会い、ある時は映画館のチケット売り場に並んでいる目の前に居たのがバイトさんだったこともあった。

しかし何故か、私たちがお付き合いをしているんじゃないか…。と疑う人間は店に1人も居なかった。

ねぇ、あれ、なんでだったんだろ?本当に、なんで?

実は皆にバレていて、私達に気を遣ってくれているだけでは?と思われるかもしれないが、それは絶対に無さそうな雰囲気のレベルで、いつまで経っても誰からも疑われないのであった。

バレたら面倒だし別に良いんだけど。でもなんか1ミリも疑われないことは解せなかった。

最終的には、夫が新車を購入した際、それまで乗っていた車を私に譲ってくれた時のことである。

私は自分の車を持ったことが無かったためとても嬉しくて、家から店まで超至近距離なのに車で通勤し始めたのだが、上司に車を『売ってもらった』のではなく、『譲ってもらった』という、普通に考えたらあり得ない事情を、店の誰もが疑うことなく「良かったね。」と言って喜んでくれたのだ。

ねぇ、さすがに本当に、なんで!?

それだけが未だに解せぬのであった。

おしまい

においフェチの皆さん、勇気を出して、自分を認めて、共に生きましょう!最後まで読んで下さり本当にありがとうございました☆彡

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